アーティストインタビュー

守田衣利

守田衣利 1.ローリーとおもちゃのポニー, 2013
お母さんはアーティスト。凛とした意思をもつ強そうな女の子。
遊ばなくなったポニーのぬいぐるみと一緒に撮影。

「子供たちが放つ煌めきをクリスタルのように凝縮し写真に収めたい」

守田衣利(写真家)

アメリカ、サンディエゴ在住の守田衣利。2012年に開催したスライドショー「エレメンツ・オブ・ライトvol.2」では、感動いっぱいの作品「Close your eyes, make a wish.」を披露。この作品は、根源的な繋がりを持つ家族をテーマに忘れたくない大切な思い出を記録したものである。
2013年、夏。昨年を振り返りながら、現在、取組まれている新作についてお話を伺った。

スライドショー「Close your eyes, make a wish.」について

−お久しぶりです。日本はいかがですか?

守田:日本を離れて17年がたちましたが、日本語をしゃべると日本人、英語をしゃべるとアメリカンに近い感覚になります。なので、帰国すると一瞬にして、こっちの人になりますよ(笑)。
娘を見ていると特にそう思いますが、少しかしこまるというのか、規則に従わなきゃという感じになるようです。言語の特徴で、性格も少し変わってしまうようなところがあるのがおもしろいですね。

−昨年は、スライドショー「エレメンツ・オブ・ライトvol.2」にご出展ありがとうございました。
作品タイトルは、「Close your eyes, make a wish.」でしたね。

Close your eyes, make a wish. from eri morita on Vimeo.

守田:『目を閉じて願い事をして』というタイトルです。

−拝見し、思わず涙が出てしまいました。

守田:自分で撮った写真ですが、私も毎回泣いてしまいます。家族ではない人が見てもそういう感じなのは嬉しいですね。私の中では浄化作用があるように感じています。端的に説明すれば、小さかった子が大きくなる。ただそれだけなんですが、それだけのために何人もの家族が心を砕いて見守っていく。その過程を記録したかった。

−ご家族の写真は以前から拝見していたのでとても興味深いです。家族をテーマに写真集も出されていますよね。

守田:『ホームドラマ』(2005年、新風舎)の頃は、家族というものがよくわからなくて、葛藤みたいなものがありました。家族って選べないじゃないですか。なので、自分はなぜこの家族に生まれたんだろうとか、他人同士が出会ってどうやって家族が出来ていくんだろうかとか、小さい頃からずっと疑問に思っていて、受け入れられなかったんです。妹たちの結婚と出産を写真を通して記録することで、こうすればいいんだと納得できた。

私は熊本県出身で、5歳の時に東京に移り、そのときに大好きな祖母と別れることになったんです。自然に囲まれた環境から、東京の町中に移ることになった。「なんで私はここにいるんだろう」というのは、そこから強く持つようになりました。違う環境に移ったのはなんでだろう、私がいるところはここではないんじゃないか、本当は熊本ではないのか、と思っていたんです。小学校のときはずっとそういう感じで過ごしていました。それが原点としてあるので、今でも毎年熊本に帰っています。祖母に会いに行くんです。

熊本には親戚がたくさん住んでいます。何か事がある度に、従兄弟の家に30人、40人と集まります。それを不思議に思った従兄弟の友人が「なんでそんなにみんなで仲がよいの?」と尋ねたらしいんですね。そしたら「兄弟とか従兄弟とか、そのお嫁さんとかお婿さんとか、全く境目がないの。」と返答したらしいんです。本当にそういう感じなんです。そういうのもあって仲が良いんですよ。

−従兄弟さんをはじめ、繋がりを大切にされているんですね。カメラ、ムービーを向けられても、みなさんすごく自然な表情でいらっしゃいます。この「夏休み」のムービーもすごくステキですね。私も知っている、経験したことのある夏休みだなぁと懐かしい気持ちで拝見しました。

Summer Break ー夏休みー from eri morita on Vimeo.

守田:帰るたびにたくさん撮っています。10年以上同じ人物を撮り続けているので、私が写真を撮るのはもう当たり前のことになっていて、かまえることもなく家族行事のようになっています。写真がたまってきたので熊本だけでまとめてみたいとも思っているんですよ。

編集作業について

−スライドショーの編集ですが、技術的なテクニックもすばらしくて、非常に完成度の高い作品でしたね。

守田:締め切りに向かって集中しました。1週間くらい寝れない感じで作業したんですよ。その甲斐があって、いい形になったと思います。
普段、撮ることが先立ってなかなかまとめられないところがあります。私の中では瞬間を切り取るだけで、大事なものは記録されたと安心してしまうところがある。でも、やはり撮った物をわかりやすく作品にまとめていかないと次に繋がっていかないので、本なりスライドショーなり展覧会なりの形にするスピードはあげていきたいと思っています。

−作品ファイルをダウンロードしているときですが、どこそこかのサーバーにアクセスしているとはいえ、サンディエゴと繋がっているような気持ちになりました。画面のダウンロード%表示のラインを目で追いながら「来る!来る!」と、興奮しました(笑)。

守田:スライドショーはデジタルで簡単に作れるようになったので、インターネットではよく観ますけど、一つの会場で大勢の人が一緒に観る機会が以前ほどないですよね。そのスライドショーをわざわざ見に来てくださるオーディエンスがいる。暗い場所に写真を観ようと待ち構えている人たちがいる。その刹那が大事と思います。だからこそ、とっておきの秘密を打ち明けるように、その場だけでしか観られない何かを提供したいという想いはありますね。

−そうですよね。私もスライドショー独特のライブ感が好きでこだわりを持って企画しているんですよ。自然音がたくさん入っていて写真と音がとてもよく合っていました。
同じものを見ている、一緒にその場所にいて時間を共有するような感覚がありました。家族とは、生きるとは、という根源的なものに触れさせていただいたんですよ。

全部忘れたくないからシャッターを切る。

守田:私は、昔からモノが捨てられない性分で、以前起こったこととかも思い出したいし、全部忘れたくないんですよ。たぶん、忘れたくないから写真を撮っているんだと思います。結果的には、時間を撮っているのかもしれません。同じ人物を、何回も何年も時間をかけて撮りたいんです。

たとえば写真集の最後の方に出てくる少年ですが、当時の彼は十代の後半。それが今二十代の後半になっています。以前は男の子という印象だったんですが、今は結婚をして子どももいる。今年は家族三人の写真を撮ってきました。
もう一人ずっと十代のころから撮り続けている従姉妹がいて、彼女が今年結婚したんです。今年もいつもと同じ場所で定点観測的に撮影をしたんですが、お腹には赤ちゃんがいるから来年は赤ちゃんといっしょに撮れるねって話していたんです。そういうことがすごく嬉しくて。私の撮りたいものは時間の流れなんです。

−大事な時間を写真で残されているんですね。

守田:変わってしまうのは、やっぱり寂しいことなんですよ。でも、写真を撮っているから、それを受け入れられる気がします。

−変わっていくというのは、大人になっていくという事なのかもしれませんね。

守田:そうですね。残せるものは、写真に撮っておきたいという感じです。現在、進めている新作も、なんというか、その瞬間を撮っておきたいという気持ちから始まりました。

新プロジェクト「In This Beautiful Bubble」(仮)について
 ―外の世界を見せてあげたい―

−新しいプロジェクトですが、今回はどのような作品になりますか?

守田:今、被写体として注目しているのが、サンディエゴの私の周辺の子供たちになります。

−写真を拝見したところ、どのお子さんたちもすごくファッショナブルですね。『不思議の国のアリス』の童話の世界から抜け出してきたかのような美しい少女、プールがある大きなお家、ハンモックが揺ら揺らしていている中で、子供たちはモデルさんのように美しくゆったりと寛いで遊んでいます。大きなポニーもペットで登場します。ヤギや、鳥、豚までペットとして飼っていらっしゃる。
日本では考えられないような、ハイソなクラスの写真に感じられますが、彼らの暮らしぶり、その雰囲気が写真で見れてたいへんおもしろいです。

守田:でもハイソではなく、中流クラスの方たちでいらっしゃるんですよ。これからハイソな領域にも踏み込んで撮影していきたいと思っているんですが、今のところ普通の家庭のお子さんたちです。

−守田さんはどのような経緯でサンディエゴへ移られたんですか?

守田:ニューヨークのInternational Center of Photographyで写真を学んでから、ニューヨークで活動していましたが、10年が経ったところで子供が生まれました。それをきっかけに、他のところも見てみたいねという話になって、突然ハワイに行くことになったんです。ハワイは、2年間滞在しましたが、そこでサーフィンを始めたんですよ。そこから西海岸を見てみようということになったんです。本当はNYに戻ろうと話していたんですが、サーフィンのおかげで今に至ります。

−自然な、波の流れのように、移り住まわれたんですね。

守田:西海岸で子育てをしてみると、自分の育った場所と全く異なっていたんです。当たり前なんですが。私が育ったのは東京大田区蒲田で、小さな町工場がたくさんあるところなんです。ごちゃごちゃしている街中を子どもたちは路地やら空き地やら公園なんかを自由に行き来して遊んでいました。サンディエゴの郊外とは全く違う環境になります。アメリカでは基本的に小さいうちは親がどこにでも送り迎えをするので、その意味では守られた環境ですから。
サンディエゴで娘を育てるうちに、たくさんの子どもたちに出会いました。子どもを育てるにはうってつけのような場所で、子どもたちも美しいんです。なんか不思議な感じがしてきて、「どうなっちゃうんだろう、この子どもたちは。このキレイな場所しか知らない子どもたちは…」と思ったのが一番のきっかけです。
そんな時に出会ったアメリカ人のママ友の一人がこう言ったんです。
「私の子どもたちはこの美しいシャボン玉の中(In This Beautiful Bubble)の世界で生きているけれども、いつかこの世界の外側を見せてあげたい」と。
彼女はサンディエゴ出身で結婚して子どもをその地で育てているのだけれども、この作られたように美しい場所の外に、別の現実もあるんだってことをちゃんと見据えているんです。

瞬間をクリスタルのように凝縮したい

守田:サンディエゴは、カリフォルニア州のロサンジェルスよりも100マイル南の場所になるんですが、アメリカの中では、家族旅行で来たりするような観光地でもあるんですよ。海がすごくキレイで自然が一杯な場所です。蒼いイメージというか、アザラシがいたり、アシカもいるんですよ。

−アザラシやアシカが東京・大田区に出没しただけで、ニュースになっちゃいますよ。多摩川のタマちゃんのような、今は小田原のオダちゃんがブームです(笑)。

守田:イルカもいるし、クジラもたまに遠くの方で見えるんですよ。

−ステキなところですね。その場所に住むティーンエイジャー、子供たちを撮影されていくんですね。

守田:まだ始まりの段階なのでこれからさらにアイデアを膨らませていきますが、子供たちを個人的に知った上で、一人一人にあったやり方で撮影していきたいと考えています。外の世界を知らない彼らを、蝶々を収集するみたいに撮っておきたいんです。本人たちはなんとも思ってないと思うのですが、どの子どもにも今しかない煌めきを持っていて、それはその年代特有のものですよね。その瞬間をクリスタルのように凝縮しておきたいんです。

−蝶々を収集するような、という言葉の響きに、すごく惹き付けられます。完成を楽しみにしています。
ありがとうございました。

(2013年8月吉日 フォルマーレ・ラ・ルーチェにて収録)


守田衣利・プロフィール

熊本県生まれ。フェリス女学院大学卒業後、出版社、作家アシスタントを経て、ニューヨークへ移住。
1997年、国際写真センター、ジェネラルスタディース修了。
1998年写真新世紀ホンマタカシ優秀賞受賞。
1999年から撮り続けている『ホームドラマ』シリーズが、2005年に写真集として出版された。国内外にて個展、グループ展、スライドショーに参加している。現在カリフォルニア州サンディエゴ在住。

ウェブサイト:www.erimorita.com

お問合わせ:フォルマーレ・ラ・ルーチェ info@formarelaluce.jp

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